出典:愛育通信 No.113(2018年8月号)に掲載

発行:愛育心理研究会(info@aiikushinri.com)

 

テーマ:自由保育の実践

―『大地に育つ絵』塩川豊子(著者&編集代表)を通して語る― 

 

塩川寿平 大地教育研究所所長  大中里こども園名誉園長  元静岡県立大学教授

 

①はじめに

 

日本の「変革が進む幼稚園・保育所・こども園等の真っ只中」にあって、

 

子どもが子どもとして発達成長するためには霜田・ニールの自由教育の精神を

 

継承していくことが大切です。

 

創始者塩川豊子(1915~1999)の野中こども園(旧野中保育園=現在創立65周年)

 

の自由保育(=子ども主体の保育)は霜田・ニールの精神を継承し、著書

 

『大地に育つ絵』に結実しました。

 

園児の自発性・主体性・個性・創造力、等が100%受容され、

 

引き出される方法論および教材論として、塩川豊子の『大地に育つ絵』の実践は、

 

自己肯定感情を育む質の高い保育として結実しました。

 

(注)ニール:Neil, Alexander Sutherand 1883~1973  イギリスの教育家、      

サマーヒル学園の創設者であり、自由教育の世界的な先駆者

 

霜 田:霜田静志1890~1973 代表著書『叱らぬ教育の実践』、ニールを知り

自由教育と精神分析の研究に専念、愛育心理研究会主催、多摩美術大学教授  

 

 

②方法論から評価する

 

 この著書の出版年は1992年です。

 

野中こども園(旧野中保育園)の創立40周年記念誌として出版されたものです。

 

 伝統的な教師主導型の一斉保育から指示待ち症候群の子どもが育つ事態を嘆き、

 

指示待ち症候群の子を育てないためにはどうしたらよいか。 

 

その挑戦として取り組んだ方法論として、塩川豊子は自由保育

 

(=子ども主体の保育)を積極的に取り入れました。

 

歴史的に自由教育の先達であったASニールのサマーヒル学園の教育や、

 

霜田静志の『叱らぬ教育の実践』を熱心に学び、園児の自由意志が純粋に

 

尊重され、素直に受容される自由画を幼児教育・保育の方法論として取

 

り組み、その集積された乳幼児の自由画の実践を出版したもので、

 

この著書は幼稚園教育要領および保育所保育指針の5領域を全て踏

 

まえている方法論から育まれたもので、今日、高く評価されています。

 

 

③教材論から評価する

 

まず教材論として「目に見えない深層心理」のドキュメンテーションで

 

あるところが優れている。ここで「深層心理」のドキュメンテーション

 

と言う言葉を使ったのであるが、一般的に使われているドキュメンテー

 

ションの研究は、「評価できる形のある“表現”」という意識分野の教材

 

研究がほとんどで、「評価できない形のない深層心理の“表出”」と言う

 

無意識分野の教材研究を取りあげる事はほとんどされていないのである。

 

 

そこで強調しなければならない事は、『大地に育つ絵』の重要な価値は、

 

園児の情緒の安定には無意識分野(喜怒哀楽や、不安・抑圧・嫉妬・

 

妬み、等)の教材研究が必要であるあることを重視し、見逃していな

 

いところにある。

 

扱いにくい教材論として、破壊する・暴力を振るう・嫉妬する・

 

嘘をつく・等、反社会的な精神活動を健康的に、健全に、

 

思いっきり表出させる描画は、怪我などしない安全な幼児教育・

 

保育の希少な教材論であることである。

 

 

表出ということは俗に言う「ガス抜き」である。

 

教材論として「ガス抜き」を取り入れているところが高く

 

評価されている。塩川寿平はカリキュラムの全体のバランスを重視し、

 

「表出50%=破壊的・暴力的等=叱られる・ガス抜き・評価されない、

 

等」である。同時に「表現50%=生産的・建設的等=ほめられる・

 

価値がある・評価される、等」の幼児教育・保育のバランス

 

『表出50%』&『表現50%』を理想的と考えている。

 

 今日の教育界一般は、教材論として『意識領域の“表現”』

 

が多すぎる。それに比べて自由画の大切さは『無意識領域の“表出”』

 

の教材であり、幼児教育・保育のバランスの上からもなくてはならない教材論である。

 

④実際の描画からQ&A

 

Q①「自由画では描きたい子だけが描くのですか、描かない子はどうするのですか?」

 

 A:自由画のねらいはまず絵を描くことを大切にしています。

理由はカタルシス効果があり情緒の安定を計り、心情・意欲を育てたいからです。

 まずは描きたい子から描きます。イーゼル代わりのベニヤ板が立ててあります。

そこで4~5人が交代で描いています。クラスの誰かが描いていないかを確認して、

自然な形で誘導します。描きたいものを描きますし、励ます事はしても、

比べるような評価はしませんので誰にも気兼ねなく描ける保育になっています。

 

Q②「どのような呼びかけで描くのですか?」

A:保育士が絵の具を溶いていたりすれば、描きたい子が集まってきます。

呼び集めたい時は、「絵かこうよ」と言うくらいで無理には集めません。

 

Q③「テーマは与えないと聞きましたが、描けない子はいないのでしょうか?」

A:昔は読み聞かせをして、感動した場面を描かせることもありましたが、

20年ぐらい前からは、ほとんど描きたいものをということで、どんどん

描くようになり、同じような絵を描く事はなくなりました。

 

保育士も「絵は子どもの心であり、言葉であり、訴えだ」と言うことが

わかり子どもの伝えたい「表出や表現」のテーマを保育士が出すことは

ナンセンスだと考えるようになり、園児の心の最上の語りかけが

『大地に育つ絵』です。

 

Q4「ぬり絵はよくないと聞きますが、どうしてなのですか?」

A:ぬり絵は印刷の同じパターンの絵の枠をはみ出さないように

注意してぬる遊びです。

上手に書けたと錯覚したり、真似することが習慣になって、

個性的な絵が描けなくなり、本心の感情の表現ができなくなると

いう悪影響があります。違う絵を描いた時に励ますようにして、

ぬり絵は遠ざけてほしいと思います。

 

 

 

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塩川 寿平(1938年生まれ)


   大地教育研究所所長
   大中里こども園名誉園長
   元静岡県立大学教授


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活動:こども環境学会アドバイザー
    愛育心理研究所インストラクター

著書:「名のない遊び」「コーナーのないコーナーの保育」 
    「どろんこ保育」「大地保育環境論」等   
(出版社 フレーベル館=電子書籍化も有ります)

 

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    ジュッペちゃんの保育のこころ
子どもを大切にするということは人としてであって、
私たちの"大地保育"は大人も童心人となって、
子どもと共に独立国(子どもの園)を創造するということ
ではないかと思います。 
いつでも・どこでも・いつまでも子ども心を忘れずに
『名のない遊び』等を大切にしたいと思います。

 

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