与党ややリード、野党急追 台湾総統選
統一候補失敗でも野党優勢 立法委員選
ねじれ現象なら前途多難
2024年1月13日投開票の台湾総統選、立法委員(国会議員)選まで一ヶ月を切り、各党の正副総統候補が出そろった。総統選では与党・民進党候補が野党2候補よりもややリードを保ち、野党は統一候補を実現できなかったが、最大野党・国民党が急追している。立法委員選(113議席)は与党が苦戦。野党2党が連携して優勢になっており、少数与党化が懸念されている。
議員選は野党連携で議席増か
少数与党化の危機、安保にも
総統選を過去20年以上、取材してきた経験値では、投票一ヶ月前から無党派中間層の動向による大きなうねりが最終盤に波及し、勝敗が決まる。
先回の2020年1月の総統選では、香港の民主化デモと香港での反体制的な言動を取り締まる国家安全維持法(国安法)施行準備などで一国二制度が崩壊し、「今日の香港、明日の台湾」という台湾有権者の危機感が与党・民進党の蔡英文総統再選に大きな後押しとうねりを醸成した。
しかし、今回は中国の露骨な圧力が香港問題ほど大きくなく、香港の雨傘運動リーダーの一人だった周庭(アグネス・チョウ)氏がカナダに亡命、12月10日に投開票された香港区議会議員選挙が親中派だけが当選する実情には一定の危機感がある程度だ。中国の圧力が弱く見える分、野党候補一本化失敗のドタバタ劇に乗じて「二期8年ごとの政権交代が健全な台湾民主化の流れだ」という長期政権腐敗防止の声を徐々に中間層に浸透させている。中国共産党は非効率的な圧力を控え、無党派中間層の票の流れを政権交代に引き寄せる工作に転化している。
与党・民進党の頼清徳総統候補(64)は世論調査でリードを保ってきたが、今月上旬から支持率が下がり始め、最大野党・国民党の侯友宜総統候補(66)に急追され始めている。第2野党・民衆党の柯文哲総統候補(64)は野党統一候補一本化を破棄したあおりで低迷傾向が続いているが、民進党と国民党の攻防に嫌気を刺した若年層に根強い支持がある。
台湾ネットメディアの美麗島電子報の最新世論調査の動向(図表参照)によると、民進党の頼氏と蕭美琴・前駐米代表(大使に相当、52)の正副総統候補ペアが支持率35.1%、国民党の侯氏と趙少康・元立法委員(73)のペアが32.5%、民衆党の柯氏と呉欣盈・立法委員(45)のペアは17.9%となっている。
頼候補の支持率が下がり始め、侯候補の支持率が上がったのは、ここ一ヶ月、野党統一候補が決まれば政権交代への期待を膨らませた有権者が柯候補による野党一本化の破棄で第二野党トップの資質に失望感が広がり、やや野党寄りの無党派中間層が民衆党への失望、国民党への期待として表れた形だ。だが、野党統一候補を決める合意をした際、立会人だった馬英九元総統の側近が事前に北京に行き、中国当局と交渉していたとの台湾メディアの報道もあり、一時的な支持率上昇に過ぎない可能性もある。
▲総統選で政権交代があった方が良いか、現状で良いか 美麗島電子報での調査結果
台湾のネットメディア「ETtoday民調雲」の最新世論調査(12月6、7日)では、頼候補が39.0%(前回比1.6ポイント増)、侯候補が33.8%(2.5ポイント減)、柯候補が18.1%(1.5ポイント減)でむしろ、与党が野党を引き離している。
野党統一候補一本化が決裂しても、国民党と民衆党は激しい罵倒戦は避け、立法委員選での協力が進む。小選挙区では成功している区もあり、むしろ、野党一本化が潰(つい)えても、立法委員選で与野党逆転が現実化する勢いだ。
▲台湾立法院(国会)では現状は与党・民進党が過半巣を占めるが、1月13日の選挙では与党・民進党の過半数割れが予想されている
仮に総統選で民進党の頼候補が当選しても、立法院(国会に相当=113議席)の立法委員選(現職は民進党61、国民党37、民衆党5、時代力量3、無所属6、欠員1)では、民進党が過半数となる57議席を割る可能性が高まっている。当選しても政権スタートからねじれ現象を起こし、対中政策で重要な国防予算などが通過せず、少数与党の不安定な政治的舵取りを迫られ、安保でも親中色の強い野党によって中国を利することになりそうだ。
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