人間はどんな場合にでも、人の行為を何の疑いもなく、
そのままに受けることが、何よりも大切だと、私は思う。
人間お生きて行く生涯の目的は、人様々である。お金を貯
めることの好きな人間は、何をおいてもお金を貯めるし、事
業家は事業の上の計画を錬るであろうし、科学者は科学の研
究に熱中する。
それらのものの中にあって、私はどういう風の吹き回しか
自分の好きだと思う仕事をして、しかも毎日、同じ机の前に
坐ってその日の仕事を済ますことができる。そして、もし、
私に能力がありさえすれば、人の心を動かすようなことを書
くこともできる。何という幸福か、と思うのである。
病気が治った時、必ず思い出す言葉がある。いつかテレビ
を見ていた時に、俳優の小沢昭一さんが言っていた「仕合わ
せなるは、ささやかなるが極上」という言葉だ。「そうだ。
ああ本当だ。全くその通りだ」と私は思う。
ー宇野千代