お得意を広げたい、今100軒あるお得意先を110軒に
増やしたいということは、商売をしている限り誰もが望むこ
とでありましょう。
しかし、一口にお得意を広げるといっても、それは決して
たやすいことではありません。そのためには、やはり日頃か
ら色々な方策を考え、それを力強く実施していく努力を
重ねなければならないのはいうまでもないでしょう。
ただ、その一方では、日頃一生懸命商売に打ち込んでいれ
ば、お得意先が求めずしてひとりでに増えるということも
あり得ると思います。
というのは、自分の店のお得意さんが、特に頼まなくても
、みずから他のお客さんを見つけて連れてきてくださるとい
うことも、考えられるのではないかということです。例えば
、いつもごひいきしていただいているお得意さんの一人が、
その友人に次のように話されたとしたらどうでしょうか。
「自分はいつもあの店で買うのだが、非常に親切で感じがい
い。またサービスも行き届いているので感心している」。
それがその人の実感から出たものであれば、友人は「君が
そう言うのなら間違いがないだろう。ぼくもその店へ行って
みよう」ということになりましょう。その結果、お店を訪ね
てくださる。商売をしているほうとしては、みずから求めず
して、ひとりでにお得意さんを一人増やす道が開けるという
ことになるわけです。
そうしたことを考えてみますと、日頃商売をしていく上で
お得意さんを増やす努力を重ねることはもちろん大切ですが
、現在のお得意さんを大事に守っていくということも、それ
に劣らず大切だということになると思います。
つまり、極端にいえば、一軒のお得意を守り抜くことは
100軒のお得意を増やすことになるのだ、また逆に、一軒
のお得意を失うことは、100軒のお得意を失うことになる
のだ、というような気持ちで、商売に取り組んでいくことが
肝要だと思います。
ー松下幸之助