中国本土の教員数急増 香港の主要大学 | 中国情報ジャーナル ディープな香港・中国・台湾

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1997年7月1日に英国から中国に返還された香港。1997年から香港に駐在したフリーランスライターが現場取材をもとにディープな香港、中国、台湾の最新情報を書き尽くしていきます。

中国本土の教員数急増 香港の主要大学
失望した香港人教員は海外流出
中国化で香港研究が骨抜き


香港での反体制的な言動を取り締まる20年6月の国家安全維持法(国安法)制定前後を機に香港の主要大学の教職員、研究者の間で香港の中国化が着実に進んでいる。過去4年間で中国本土出身の教員が35%増加し、逆に香港の将来に失望した香港の学者、研究者が海外に移民流出する動きが加速。香港の郷土愛、特色を活かした研究発展を阻み、中国の一都市としての発展のみが奨励される教育環境に様変わりしつつある。

 

▲香港大学の創立111周年の記念行事


香港政府系の大学教育資助委員会が発表した香港の主要8大学(香港大学、香港中文大学、香港科学技術大学、香港理工大学、香港城市大学、香港バプテスト大学、嶺南大学、香港教育大学)での教員・研究者数の過去4年間の増減動向を見ると、中国本土(香港、マカオ、台湾以外の中国本土出身者)の教員数は35%に急増、逆に地元の香港市民の教員・研究者数は14%減となっている(図表参照)

 


 

詳細を見ると、中国本土から来た教員数は2017~18年(17年9月~18年6月)が1175人、2021~22年が1592人で35%増。教員・研究者全体では24.4%から32%に急増している。香港市民の教員数は2017~18年が2003人、2021~22年が1722人で14%減。教員・研究者全体では41.5%から34.6%に減少しており、中国本土の教員と香港市民の教員の割合がほぼ横並びとなり、今後は逆転する見通しだ。

 


とくに香港の理工系の名門である香港理工大学は香港市民の教員数が506人から380人に24.9%減となる一方、中国本土の教員数は154人から297人にほぼ二倍化し、香港嶺南大学でも香港市民の教員の割合が約2割減となっている。

 

▲香港中文大学の理工系の研究室風景
 

国家安全維持法の制定や着実に進む国家安全条例の制定準備の動きに伴い、学問の自由に関して、ここ数年の香港社会での研究者の反発は強く、有能な教員、研究者が香港の現状に失望し、移民流出する動きが着実に強まっている。中国本土の教員増が著しいのは、海帰派(海亀派=中国本土から欧米の大学や大学院で修士や博士を取得して帰国する人々)の中で香港での職を求める学者、研究者が増えていることが原因だ。

 


 

元来、中国本土からの移民都市である香港は、文化大革命の前後から香港と隣接する中国広東省や福建省などの文化的影響が強く、上海からの移民も多い。中国返還前までは宗主国の英国の影響が強く、香港の歴史文化を重視しながら独自の文化、研究が進んだ土壌があるが、若手の香港人研究者が海外流出し、香港に元々、愛着があるわけではない中国本土出身の海外留学組の研究者が教員になることで大学界の教員のクオリティは中国の一国一制度の価値観が強まりそうだ。

 

▲香港中文大学のキャンパス風景
 

香港城市大学教授の職を辞め、今月から英国ブリストル大学教授に就任した葉健民教授は「海帰派(欧米留学組の中国人)の学者の学術能力は、とくに学界に影響力のある論文発表、論文出版で驚異的だ」とした上で「欧米の大学でも中国本土の分校が設置され、中国本土の学者、研究者を優遇招請する動きが強まっている。とくに中国本土の学者が増えることで中国共産党批判と取られかねない学問の自由が制限される動きに抗議する若手の学者への圧力が強く、香港市民の研究者、大学管理層が自己保身のための悪い保守主義に陥っている」「今後、中国本土の学者が大半を占めるようになれば、香港人学者はお役御免になる」と憂慮している。

 

▲香港大学の入学記念式典
 

香港中文大学の蔡子強講師も「香港の有能な学者、研究者が香港の直面する重苦しい社会機運に失望し、政治環境も移民するかどうかの瀬戸際を超え始めている。移民流出はその証左だ」と話している。
 

中国本土から香港の大学で学術研究する学者の場合、「香港と中国本土の文化や価値観の差異に認識不足が多く、香港への特別な郷土愛や情感に欠けるため、香港を一般的な地域として香港研究するケースが多い。香港に根を張った研究が不足している」(広東省深圳出身で米国留学後に香港城市大学助教授となった文博氏)と自戒を込めて語る。

 

▲香港教育大学の教職員会議
 

香港中文大学の李立峯教授は「中国政府の海外留学奨励政策で中国本土の留学生が世界各地に学者として就く増加傾向は自然な成り行き。海外で香港社会の民意を研究するのは困難で、とくに香港独立に関する再研究は困難で近い将来、消失する研究領域」と断じる。
 

香港の主要8大学で中国本土の学者、教員数の割合は、とくに工学部、理学部などえ大幅に増加。過去4年間で工学部で39%、理学部で27%増となっている。

 

▲香港教育大学に留学した中華系の学生たち
 

近年、米中関係が厳しさを増し、米国は科学技術に関して中国への警戒感を高めており、中国人の欧米留学組の学者、研究者はとくにAI(人工知能)、液晶関連分野では米国での就職、査証申請の許可が下りにくい。香港、シンガポール、マカオなどの大学は中国本土出身で欧米で博士号を取得した理工系の学者が打ち込みやすい研究環境だ。
 

香港の主要8大学での教員、研究者の離職率は2021~22年度で7.4%となり、中国返還後、過去最高。とくに文学部や人文科学部での離職率が9.33%となり、最高だ。次に商学、経営学部などが9%となっている。

 

▲香港大学創立111周年の記念行事風景
 

海帰派にとって香港の大学は中国本土の大学よりも学術レベルが比較的高く、制度上、欧米に沿ったシステムになっていることが魅力であり、吸引力がある。今後の香港の大学界の課題は、地元密着の独自の学術部門を伸ばすために旧来の香港市民の若手学者を頭脳流出させず、香港の大学で研究させる環境づくりをすること。

 

 

さらに海外での最新研究が豊富な海帰派を香港に定着させ、中国共産党一党独裁とは違う香港の伝統文化、歴史、価値観に理解を深めさせることだ。

 


 

3月13日、全国人民代表大会(全人代=国会)閉幕式で習近平党総書記は「一国二制度の実践と祖国統一を推進し、香港とマカオの長期的繁栄と安定こそが経済、民生を改善できる」と述べた。
 

就任したばかりの李強首相も同日の全人代閉幕後の記者会見で「近年、香港やマカオの発展に困難が直面しているが、しばらくは国際金融、貿易、港運の三大センターとしての強みを活かし、弱点をなくしていく『発展中の困難』期だ」と話した。
 

中国政府が目指すのは、香港の青少年の憲法や基本法に対する教育を強化し、国家意識と愛国精神を高める愛国教育の推進だ。香港の主要大学で激しい反中デモが展開された苦い経験は中国政府が徹底して進める大学の中国化、小中学校など公教育での愛国中国化を着実に進めていく。小中学校から大学までの青少年期、反中、反共の〝牙〟を抜き、中国への従順な忠誠心を取り込む青少年教育、市民教育で総仕上げを目指している。

 

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