小中高校教員の離職急増 密告恐れ自己検閲 香港 | 中国情報ジャーナル ディープな香港・中国・台湾

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1997年7月1日に英国から中国に返還された香港。1997年から香港に駐在したフリーランスライターが現場取材をもとにディープな香港、中国、台湾の最新情報を書き尽くしていきます。

小中高校教員の離職急増 香港
「愛国教育」中国主導に嫌気

中国の習近平指導部が主導する愛国教育が本格化する香港で定年前に離職する公立小中高校の教師が急増している。教師が生徒から天安門事件や一国二制度について質問されて多様な見方を紹介すれば密告されて政府から警告書が出る重苦しい雰囲気に教育現場最前線で働くベテラン教師たちが自己検閲に嫌気を指し、反発している。


2年で2.5倍 定年待たず退職
密告恐れ自己検閲する教師 萎縮する教育現場

 

国家安全教育日である毎年4月15日に行われている香港の国旗掲揚式

 

2020年6月末、香港での反体制的な言動を取り締まる香港国家安全維持法(国安法)が施行されたことで香港の言論統制、教育統制は「愛国愛港」を大義名分として中国式「愛国教育」を導入し、一変。中国への国家帰属意識を最優先させ、急速に厳しさを増している。

 

▲香港の地上波テレビ局の番組「国安法事件簿2」で国安法の制定後の動きについて鄧炳強香港保安局長も出演して説明した


国安法は「政府が学校やメディアを通じて愛国教育を進め、住民の意識を高めなければならない」と明記されており、反政府活動と見なされる言動は通報窓口から密告、通報を含め、極秘捜査され、違法性があれば取り締まりの対象となる。これまで国のあり方について宗主国だった英国式の自由闊達な討論を生徒にさせてきた教職員は密告を恐れて萎縮し、自己検閲、自己統制で身を守るしかない。

 


香港政府教育局によると、定年を待たずに離職した公立小中高校の教師の数は2019年度まで年間1200~1400人台で推移し、離職率は3%前後。しかし、香港の反政府活動を取り締まる香港国家安全維持法(国安法)が20年6月末に施行された後の21年度には2770人(離職率6・2%)、22年度は4月までの約8カ月だけで3540人(同8・0%)に急上昇している<<(表参照)>>。既に前年度より約3割多く、20年度と比べると2・5倍に達している。

 

▲香港の高校での授業風景


調査機関の香港学生能力国際評価センターによる昨年5月の調査報告書では、20年度の離職理由として「社会全体の雰囲気」「教育政策・環境の変更」が急増。急速な教育政策の変更で負担が膨らみ、「残された教師の離職も加速する恐れがある」と分析している。


離職数急増について教育局は「離職率が高い要因は早期退職、転職、移民、その他のプライベートな理由など多岐にわたるが、学校運営は正常で新人教師も補充していて問題ない」とあえて教職員の本音には触れず、不都合な真実には目を向けない。

 


 

教育局は昨年10月、新たに幼稚園や小中高校の教職を目指す人に国安法に関する試験を課し、「合格を勤務の必須条件にする」と発表。学校側は教員養成課程を修了していなくても、当局が許可証を交付した「準教員」の採用を増やし、新人教員の補填をつじつま合わせしている実態がある。

 

▲香港の高校で行われていた通識科の授業


中国政府、親中派は19年の反政府デモは中高生を含む若者が多数参加し、香港の教育に問題があったと断罪。とくに学生たちに感化させたのが「通識科(リベラルスタディーズ)」だと指摘する。生徒の視野を広げ、社会への意識を高めるために香港の高校で2009年に必修科目として導入され、大学進学希望者が受験する公開学力試験にも含まれていた。

 

▲香港の高校の授業で使われていた通識教育の教科書類
 

しかし、国安法施行後の21年9月から廃止され、中国憲法や愛国心、改革開放などについて学ぶ「公民と社会発展科」に置き換えられた。国旗掲揚が2022年から授業日に義務付けられ、新科目では、香港が中国の不可分の領土であることや国家安全の意識、新型コロナウイルス禍のような事態が発生したら政府に協力すること、などを教えなければならない内容となった。

 

▲香港の中学での授業風景
 

教育局と友好関係を保ってきた民主派で通識教育を積極推進してきた香港最大の教職員労組「香港教育専業人員協会(会員数9万5千人)」も21年、解散させられた。
 

中国政府の都合の良い長所だけが教えられ、短所、デメリットを自由闊達に意見交換できる欧米式の教育の場は一切なくなった。現場の教師はそれまでの教育方針が突然否定され、180度違う中国式の導入を迫られ、沈黙のまま失意で離職する教師が急増している構図となっている。

 

▲香港政府教育局が行う国家安全教育日に関するイベント

 

通識教育世代は幼少期から非正規課程で中国国歌を歌い、中国語を学び、小学校からは内地交流にも参加。前世代より中国本土と触れる機会は圧倒的に多い。

 

高校で通識教育科を通して祖国中国のマイナス面を知り、幼い頃に抱いた祖国中国に対する情感は次第に否定的な印象へと変わってきていたので中国政府や親中派は帰属意識が薄い教育制度に強烈な危機感を抱いていた。

 

国安法施行を機に生徒たちは日常的に中国国旗の掲揚式に出席し、国歌を歌い、国家安全に関するクイズ大会に参加する。

 

社会の変化を理解した上で文革期の紅衛兵のように『愛国者』を自称し、いずれ洗脳されて密告社会の先頭に立つか、自由への無関心を装う虚無社会のジレンマに陥ることになる。

 

▲香港で「国家安全教育の日」と定める4月15日に行われた小中学生らが参加する啓蒙イベント

 

国安法を受けた大転換の教育改革からは、中国への帰属意識、アイデンティティーを育む手段として愛国主義教育を加速させる狙いも透けて見える。

 

香港政府は全ての学校に対し、中国が「国家安全教育の日」と定める4月15日に、中国国旗を掲揚し、国歌斉唱を行うよう要請。2012年に棚上げされた愛国心を養う国民教育が民主派の激しい抵抗で取り下げられたが、その事実上の再導入をごり押しで達成した。

 

国家安全教育日である毎年4月15日に行われている香港の国旗掲揚式

 

中国政府で香港政策を統括する夏宝竜・香港マカオ事務弁公室主任は4月15日、香港で開かれた「国家安全教育の日」の式典で講演し、愛国教育の徹底を求めた。反政府デモを念頭に「(動乱の)底流はまだ波打っている」とし、「街頭での暴力の復活を警戒すべきだ」と強調して地下活動を徹底警戒している。

 

萎縮した香港の教育現場では「身を守るには何もしないのが安全」「だからといって、人を育てる教師としてそれでいいわけがない」「洗脳システムの一部になりたくない」という凄まじい苦悩と抵抗の末、教職を離職する教師たちの深い悲しみと孤独が不気味なほど沈黙を続ける香港の慟哭(どうこく)を物語っている。

 

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