推理小説「コアラツアー殺人事件」㊲ | 失語症作家 小島恒夫のリハビリ・ノート!!

失語症作家 小島恒夫のリハビリ・ノート!!

自ら作家と名乗る人間にろくな者はいないでしょう,他の方はともかく。私は2000年、脳出血を患い失語症になりました。そしてリハビリの一環として文章書きをしています、作家のように――。
何はともかく、よろしく!  (1941年生まれで、現在・80歳になる単なるじじい)

 

 

 

《オーストラリア・ゴールドコースト》

コアラツアー殺人事件 ㊲

 

 

 

「鯨井は自分から白状したのも同然で、俺は奴のことを徹底的に調べたよ。

 

探偵事務所に依頼したり、帰国のときは自分でも調べたよ」

 

「結果分かって来たのは、4人組みがやった悪行の数々だった」

 

 

それに、もっと核心を突くことが判明した。

 

追い越された目撃者が、

 

運転をしていたのは鯨井明で、助手席の3人は棒などで威嚇していた、と。

 

 

 

「どうして俺に知らせなかったの」

 

「復讐劇が固まりかかっていたからね。宏ちゃんに話せば反対されるさ」

 

それに、演じて欲しい役もあった。

 

 

 ――俺は、4人を道連れに死ぬ。由梨絵と翼に謝らせる。

 

 

「それからの俺はね、奴に、好かれるようあらゆる工夫をしたよ」

 

キャンセルが出たから、安く行ける――。

 

キャンペーンの期間だから、特別料金――。

 

モニターに決まった――。

 

でっち上げの話を伝えて、ただ同然の料金で海外旅行をさせた。

 

 

「参加したツアーではね、俺も休暇を取って同行し、徹底的にサービスしたよ。

 

カジノで儲けさせたし、女も抱かせた。

 

すると奴は、徐々に心を開き、身の上話をするようになったよ」

 

大概は知っていたが、次回の選挙に立候補することなど――。

 

 

「ただし父親の条件は、熊木たち3人の関係を断つこと、だった。

 

あんな者が付いていたら、将来禍根を残す。

 

デビュー前に、己の力で整理しろ」、と。

 

 

 

「そこで俺は、自分の悩みをさらけ出す振りを見せてね、

 

会社の金の、使い込みを話したんだ」

 

しかもそれを、ある男に知られてゆすられている。

 

何とかしないと、俺の一生は目茶苦茶になってしまう。

 

 

 

「ゆすっている野郎が、俺の役だね。不得手な悪役だな」

 

 

「信用して任せられるのは宏ちゃんしかいないものね。

 

奴は俺の嘘を信じて、興味を持ち出した。そこで次の段階に移った」

 

 

 ――事故に見せかける交換殺人。しかも実行は全て俺がやると言った。

 

 

「そんな都合のいい話があるの?」

 

「そうしないと、小度胸な奴は、踏ん切りが付かないからね」

 

――狙いは4人。宏ちゃんはそこにいてくればいい。

 

 

「要するに、講師の依頼や、コアラツアーはシナリオの一部だったんだね」

 

 

「俺は奴に、筋書きを丁寧に説明したよ」

 

深夜泊り客がベランダから墜落する。

 

翌朝同室者のあなたは警察に呼ばれて事情を聞かれる。

 

しかし2人の間にこれといった争いになる要因がないので、

 

警察は酔った上での事故と結論付ける」

 

 

 

「そのころ、あなたの仲間の3人は、俺が手配した車の事故で死んでいる」

 

 

――アリバイがあるあなたは、疑われない。

 

 

 

 私は泰一君の話しを聞きながら、泰一君の悲しみと憤りを感じた。

 

 

泰一君はこの世にいながら、

 

すでに由梨絵さんと翼君の世界へ行っていたのだろう。

 

でなければ、

 

こんな恐ろしい計画を立てる、男ではない。

 

 

「4日目の夕方、宏ちゃんたちが事故のことで電話をくれたね、

 

俺はうれしかったよ。

 

誰も気づいてない殺人を、宏ちゃんたちは気づいてくれた。

 

追う者と追われる者、立場が違っても、一本の紐に結ばれている」

 

 

 

「じゃ俺たちが報告した内容で、焦った訳ではないんだね」

 

「自分でもよく分からないんだけどね、そういうことなんだな」

 

 

「具体的に教えていただけますか、この辺が肝心ですから」

 

 黙々とメモを取っていたミルク君が、話に加わってきた。

 

「缶ビールのロゴや、消えた一本はダイニング・メッセージでしたか」

 

「そうです。あなたたちならいずれ見破ると思っていましたよ。

 

鯨井のビールの癖や、少し開いていたガラス戸。

 

誰が消したかわからない電灯。全て計算しました。

 

ミルクさんの会社の部長さんは、想定外でしたけどね」

 

 

 

「それにしても、3人を車の事故で殺害すなんて、

 

テレビドラマじゃあるまいし、明さんは信じたのかね」

 

 

「俺もそこは不安だったけど、そうとう奴は焦っていたんだろう、

 

引っかかって来たよ」

 

 

 

「俺は歓迎パーティーが終わると、

 

従業員用のエレベーターで43階まで上がり、

 

社で押さえている部屋に入ったんだ。

 

宏ちゃんたちの階の一つ上で、しかも真上の部屋だよ。

 

ここなら、いくら登山の腕が鈍っても、簡単だな」

 

 

「明さんは、自分がやられるのも知らず、殺人計画に加担したわけか」

 

 

「打ち合わせでは、午前1時、ぐっすり寝込んだところを襲うと決めていたよ。

 

それで、宏ちゃんの寝込みを確認し、あんたがベランダへ出て合図をしろ、

 

と、教えておいたんだ」

 

 

 と同時に、この時点で私は、ガラス戸がなぜ開いたのかを理解した。

 

 

 

「でも明さんは、最後まで、泰ちゃんの計画を気付かなかったのかね」

 

 

「ベランダへ降りたとき、俺は打ち合わせと言って、

 

鯨井を、ベランダの海側の奥まで誘い出したんだ。

 

そしてね、いざ突き落とそうとしたとき、

 

素直に謝ってくれれば、止めようと思ったんだよ」

 

 

「ところが奴は、びっくりし、妻の運転をなじったんだ。

 

それで俺は、切れてしまったよ」

 

 

 躊躇した気持ちは本当だろう。

 

泰一君はそういう男だ。

 

 

 

明さんは、一瞬の間に、本来の資質を見せてしまったのだろうか――。

 

つづく