《オーストラリア・ゴールドコースト》
コアラツアー殺人事件 ㊳
「鯨井さん以外は、どうなのでしたか?」
ミルク君が更に訊いた。
「3人は根っからの悪でしたね。
欲だけで繋がって、友情なんてものは、欠片もなかったですよ」
明さんの死体が発見されたとき、
泰一君は、3人の部屋を訪れて報告した。
連中はびっくりしておろおろしたが、
次の話で、目の色を変えて表情を輝かせた。
「ここだけの話ですけど、
鯨井さんは、選挙用の裏金を、オーストラリアの銀行に預金しています。
日本円で、3億ほど」
「本当ですか!」
ミルク君が、疑いの目を向ける。
「嘘ですよ、そんなこと。出鱈目です」
泰一君は否定したあと、更に続けた。
「でも鯨井には、それらしい話を臭わせるよう、指示しておいたので、
3人は、二もなく信じましたね。
それに今回の旅行で、書き換えすると言わせておきましたから」
「またその金は、本人名義だと、日本に持ち込むとき危険性があるから、
私の名義になっている、と」
「それも嘘ですね」
「少なくとも3人の知識なら、通用すると思いましたよ。
剛三氏も知らない金だと」
泰一君の肩書きも役に立ったのかもしれない。
3人は、手の内に入った。
泰一君は、私の方を向くと尚更続けた。
「俺は自分を含め、4人での山分けを提案したんだ。3人に異存はない」
「次に墜落現場に案内するとき、
熊木だけを隅の方に呼んで、ささやいたよ。
3億を4人で割ると、半端が――。
奴はニヤッと笑うと、親指を立てたよ」
熊木はそんな勘は鋭いらしく、2人の誰かを殺すことを承知した。
「そこで俺は、練っておいた策を話した。
モートン島ドルフィンツアーに参加し、シュノーケリングを申し込めって。
噛んで含めるように、説明したよ」
中島を人選したのは、熊木だった。
「事務所で宏ちゃんに電話をしたあと、俺はヨットハーバーへ急いだよ。
そこにはね、4ヶ月ほど前から借りている、モーターボートがあって、
直ぐ、島へ向かったんだ。
勿論、アクアラング持参でね」
「じゃ、午後7時ころ事務所は最初から無理だったの」
「申し訳ない。騙したよ」
シュノーケリングは3時予定なので、
泰一君は、時間に余裕を持ち島へ向かった。
1キロほどのところに来ると、熊木に持たせたスマホで様子を訊き、
順調を確認し、アクアラングで潜った。
難破船との距離は300メートルほど、慌てることはない。
「島のガイドさんが言ったのは、村岡さんのボートだったんですね」
ミルク君が独り言のように言った。
「はい、そうです。
私は観光船のコースを知っていますから、隠れ場所も分かります。
20分くらいのち、熊木たちの船が来て、3人が海に入りました」
「と同時に、
熊木が中島の背後に廻って、両肩を強く海中に押し込みました。
そこを私が、足を引っ張り、皆から死角のところに引きずり込みました」
「中島は簡単に死んでしまったの」
「いや、そうでもないよ。
何も知らせずに殺したんじゃ、俺も気が済まないよ。
皆から死角になっている所まで連れて行くと、訳を、言ったんだ」
「すると中島も鯨井と同じで、妻をなじった。
桑原がガイドにまつわりついたのは、連係プレーだったけどね」
泰一君は、また海のかなたを眺めたあと、話を続けた。
「俺は中島の死体を船倉に置くと、ボートに戻ってブリスベン港を目指したよ。
20分以内に、電話が入るはずだし、そのときは、
定期船で、島に渡らなければならないものね」
「9時には明さんの家族が来るもの、忙しかったろう」
「その深夜だよ。熊木が電話で脅しをかけてきたんだ」
「『あなたの様な人が、これをしたんじゃまずいんじゃないの』」
「山分けに、色をつれろということだよ。
よほど、俺が美味しい餌に見えたんだろうね。
俺は、兼ねてから考えておいた案を説明したよ」
つづく