推理小説「コアラツアー殺人事件」㊳ | 失語症作家 小島恒夫のリハビリ・ノート!!

失語症作家 小島恒夫のリハビリ・ノート!!

自ら作家と名乗る人間にろくな者はいないでしょう,他の方はともかく。私は2000年、脳出血を患い失語症になりました。そしてリハビリの一環として文章書きをしています、作家のように――。
何はともかく、よろしく!  (1941年生まれで、現在・80歳になる単なるじじい)

 

 

 

《オーストラリア・ゴールドコースト》

コアラツアー殺人事件 ㊳

 

 

 

「鯨井さん以外は、どうなのでしたか?」

 

 ミルク君が更に訊いた。

 

 

「3人は根っからの悪でしたね。

 

欲だけで繋がって、友情なんてものは、欠片もなかったですよ」

 

 

 明さんの死体が発見されたとき、

 

 泰一君は、3人の部屋を訪れて報告した。

 

 

連中はびっくりしておろおろしたが、

 

次の話で、目の色を変えて表情を輝かせた。

 

 

「ここだけの話ですけど、

 

鯨井さんは、選挙用の裏金を、オーストラリアの銀行に預金しています。

 

日本円で、3億ほど」

 

 

 

「本当ですか!」

 

 ミルク君が、疑いの目を向ける。

 

 

 

「嘘ですよ、そんなこと。出鱈目です」

 

 

 泰一君は否定したあと、更に続けた。

 

「でも鯨井には、それらしい話を臭わせるよう、指示しておいたので、

 

3人は、二もなく信じましたね。

 

それに今回の旅行で、書き換えすると言わせておきましたから」

 

 

「またその金は、本人名義だと、日本に持ち込むとき危険性があるから、

 

私の名義になっている、と」

 

 

「それも嘘ですね」

 

「少なくとも3人の知識なら、通用すると思いましたよ。

 

剛三氏も知らない金だと」

 

 

 泰一君の肩書きも役に立ったのかもしれない。

 

 

3人は、手の内に入った。

 

泰一君は、私の方を向くと尚更続けた。

 

「俺は自分を含め、4人での山分けを提案したんだ。3人に異存はない」

 

 

「次に墜落現場に案内するとき、

 

熊木だけを隅の方に呼んで、ささやいたよ。

 

3億を4人で割ると、半端が――。

 

奴はニヤッと笑うと、親指を立てたよ」

 

 

 熊木はそんな勘は鋭いらしく、2人の誰かを殺すことを承知した。

 

 

「そこで俺は、練っておいた策を話した。

 

モートン島ドルフィンツアーに参加し、シュノーケリングを申し込めって。

 

噛んで含めるように、説明したよ」

 

 中島を人選したのは、熊木だった。

 

 

 

「事務所で宏ちゃんに電話をしたあと、俺はヨットハーバーへ急いだよ。

 

そこにはね、4ヶ月ほど前から借りている、モーターボートがあって、

 

直ぐ、島へ向かったんだ。

 

勿論、アクアラング持参でね」

 

 

「じゃ、午後7時ころ事務所は最初から無理だったの」

 

「申し訳ない。騙したよ」

 

 

 

 シュノーケリングは3時予定なので、

 

泰一君は、時間に余裕を持ち島へ向かった。

 

1キロほどのところに来ると、熊木に持たせたスマホで様子を訊き、

 

順調を確認し、アクアラングで潜った。

 

難破船との距離は300メートルほど、慌てることはない。

 

 

「島のガイドさんが言ったのは、村岡さんのボートだったんですね」

 

 ミルク君が独り言のように言った。

 

 

「はい、そうです。

 

私は観光船のコースを知っていますから、隠れ場所も分かります。

 

20分くらいのち、熊木たちの船が来て、3人が海に入りました」

 

 

「と同時に、

 

熊木が中島の背後に廻って、両肩を強く海中に押し込みました。

 

そこを私が、足を引っ張り、皆から死角のところに引きずり込みました」

 

 

 

「中島は簡単に死んでしまったの」

 

「いや、そうでもないよ。

 

何も知らせずに殺したんじゃ、俺も気が済まないよ。

 

皆から死角になっている所まで連れて行くと、訳を、言ったんだ」

 

 

「すると中島も鯨井と同じで、妻をなじった。

 

桑原がガイドにまつわりついたのは、連係プレーだったけどね」

 

 

 

 泰一君は、また海のかなたを眺めたあと、話を続けた。

 

「俺は中島の死体を船倉に置くと、ボートに戻ってブリスベン港を目指したよ。

 

20分以内に、電話が入るはずだし、そのときは、

 

定期船で、島に渡らなければならないものね」

 

 

「9時には明さんの家族が来るもの、忙しかったろう」

 

 

「その深夜だよ。熊木が電話で脅しをかけてきたんだ」

 

「『あなたの様な人が、これをしたんじゃまずいんじゃないの』」

 

 

「山分けに、色をつれろということだよ。

 

よほど、俺が美味しい餌に見えたんだろうね。

 

俺は、兼ねてから考えておいた案を説明したよ」

 

つづく