「インフィニティ・プール」自分のことが好きで嫌いな主人公はクローンと自分を重ねていく。 | ゆきがめのシネマ。劇場に映画を観に行こっ!!

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観てきた映画、全部、語っちゃいます!ほとんど1日に1本は観ているかな。映画祭も大好きで色々な映画祭に参加してみてます。最近は、演劇も好きで、良く観に行っていますよ。お気軽にコメントしてください。
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「インフィニティ・プール」

 

を観てきました。

 

ストーリーは、

スランプ中の作家ジェームズと資産家の娘である妻エムは、高級リゾート地として知られる孤島へバカンスにやって来る。ジェームズの小説のファンだという女性ガビに話しかけられ、2組の夫婦は観光客は行かないよう警告されていた敷地外へとドライブに出かけ、事故を起こしてしまう。実はその国には、観光客は罪を犯しても自分のクローンを身代わりにすることで罪を逃れることができるという恐ろしいルールが存在しており…。

というお話です。

 

 

小説家のジェームズ・フォスターと妻のエムは、海辺の島リー・トルカのリゾート地で過ごしていた。ジェームズはスランプ中であり、夫婦の関係は上手く行かなくなっていた。ある日ジェームズの小説のファンだというガビが夫のアルバンと共に現れる。毎年このリゾートに来ているという二人は、ジェームズたちを誘い、リゾート外の田舎にドライブに行こうと誘う。観光客はリゾート外には出ないようにという警告がされていたが、気にせずに出てしまう。

リゾート外のビーチで楽しい一日を過ごした二組の夫婦は車でリゾートに帰るが、酔っぱらっていたジェームズは車で地元の男性をはねてしまう。直ぐに警察を呼ぼうとすると治安が悪く警察も安全ではないと言われ、そのままホテルに帰ってしまう。



 

後日、警察が訪ねてきてジェームズは逮捕されてしまう。村人をはねたのでその刑罰を受けろというのだ。しかしこの国には独自の司法制度があり、有罪者は多額の手数料を払って自分のクローンを作り、分身に刑を受けさせるという事が出来るのだという。ジェームズの罪状は轢逃げ死亡事件。亡くなった男の息子がナイフで犯人を処刑をすると決まった。そしてジェームズはクローンの自分が殺されるのを見なければならなかった。

自分の処刑を見たジェームズと妻のエムはショックを受け、すぐにアメリカに帰ろうとするが、ジェームズのパスポートが無い。どこかで失くしたようだった。エムは恐ろしい状況に耐えられず、ジェームズはエムだけ先に帰っていてくれと説得し、パスポートが発行されたらすぐにアメリカに帰るからという。



 

ジェームズは滞在を1週間延長し、ガビとアルバンと再会。二人はジェームズを、重大犯罪で有罪判決を受け、金を払って分身が殺されるのを見届けた西洋人観光客のグループを紹介する。

これらの人々は毎年リゾートを訪れ、自分のクローンが虐殺されるのを見るためにワザと凶悪な犯罪を犯し、クローン制作のためのお金を払って、一連の出来事を楽しんでいる。

彼らはジェームズも自分たちの仲間に入れるよう色々な罠を張り、極限状態まで追い詰めていく。そして…。
あとは、映画を観てくださいね。




「アンチヴァイラル」などのブランドン・クローネンバーグ監督の新作映画は、またもゴリゴリのゴシックというか、雰囲気的にはデヴィット・リンチ系なのかしら。主人公が精神的にどんどん追い詰められていくというホラーでした。


怖いし気持ち悪いんだけど、観ているとそれが”気持ち良く”なっていってしまうという、何とも気味の悪い映画です。いや、気持ち良くなるのは私のような一部の人間だけかな。通常はキモくて嫌な映画と評価されるような気がします。

 

舞台はお金持ちが集まるリゾート地。リゾート地以外は未開発な田舎の村のようでした。自然が残り住民は質素ですが、観光で財政を担っており、一応文化的な町にはなってきていて、警察も機能しており、土地独自の立法もあるんです。そんな法律の中で、お金を払えば自分のクローンを作ることが出来て、犯罪を犯して死刑になる場合にはそのクローンを変わりに犠牲にすれば良いとなっているんです。

 

 

これ裏を返せば、どんなに凶悪な犯罪を犯したとしても、自分のクローンが死ぬだけだから犯罪をやり放題ってことなんです。もちろん、ハイクラスの金持ちでないと、何体もクローンを作ることは出来ないので、金持ちの贅沢ですよ。毎日都会で真面目に生きていて、その溜まってきたストレスを年に1回、リゾート地へやってきて発散するということのようでした。

 

解らないでもないんです。ハイクラスの金持ちとなると、もちろん家系的にお金持ちの方もいらっしゃると思いますが、きっと今は詐欺まがいの事をして仕事を成功させ、成り上がってきたお金持ちが多いと思うんです。となると、犯罪ギリギリのところを走っているだろうから、凄いストレスがたまるでしょ。一歩間違えれば犯罪ですから、金持ちは細かいことを気にしないという方がいらっしゃるかもしれませんが、大雑把な人間は金持ちになれません。細かい事に気が付くから金持ちになれるんです。

 

 

そんなハイクラスの金持ちが集まるリゾートにやってきたジェームズ夫婦。ジェームズは出版社の経営者の娘と結婚したようで、妻のおかげでお金持ちになりました。小説家と言ってもデビュー作くらいしか書いておらず、デビュー作の評判も良くなかったらしいんです。今はほとんどヒモ生活なんじゃないかな。そんな劣等感の塊みたいなジェームズは、この島で自分のクローンが殺されるところを見てしまい、恐ろしさを感じたと同時に、自分を殺すという究極の消去法を見つけてしまい、不思議な感覚になったんだと思うんです。

 

ジェームズは、自分は小説家だけどスランプだからと理由を付けて、ヒモ生活でも正気を保っていたのだと思うんです。でも、ふと気が付くと自分には何もないということが解ってしまう。こんな自分は嫌だと思いながらも考えないようにして生きていたんじゃないかな。そんな時に、嫌な自分を消す方法を見つけてしまったんだと思うんです。

 

他のお金持ちの方々も、ジェームズと同じだと思うんです。必死で働いて今はハイクラス金持ちになっちゃったけど、今までやってきたことは消えないし、金持ちになったから死ぬのは嫌だけど、もうやることも無い。お金で何でも出来るけど何もしたくない。過去の汚い自分を消したいという気持ちだけが残って、それを、このクローンを殺すことで満足させていたんじゃないかな。

 

 

お金って、あって困るモノではないけど、沢山あっても使うところが無いのよね。欲しいモノを買えばよいという人がいるけど、欲しいモノは既に持ってるんです。それに欲しいモノを捜しに外に出るのも面倒でしょ。じゃぁ、投資してくださいと言われるけど、投資して増えても使うところが無いから意味が無いのよ。きっと、ここに出てくるハイクラスの金持ちも、そんな感じなんじゃないかな。お金の使い道が見つからないから、こんなところにつぎ込んでいるんじゃないかな。

 

目の前で自分が惨殺されていくってどんな気持ちなのかしら。怖いとは思うけど、私もジェームズと同じように、ちょっと惹かれていってしまいそうな気持がします。自分は大好きだけどその反面、壊したい気持ちもある。この人間の相反する気持ちって何なんでしょうね。人類が滅亡に向かっているのも、そんな一人一人の暗い部分が知らない内に動いて、引っ張っていっているのかもしれません。だって温暖化、核開発、環境破壊、全てを止めようと言いながらどんどん進んでいますもんね。自滅の道を選んでいるのは、人類全体なのかもしれません。

 

 

私はこの映画、超!超!お薦めしたいと思います。但し、賛否が分かれる作品なので、万人にお薦めではありません。クローネンバーグ親子の作品が好きで、人間の暗い面を否定しない方には理解出来ると思います。普通に映画をそのまま観ていたのでは、そんなに面白くはないと思います。ぜひ、観に行ってみてください。

ぜひ、楽しんできてくださいね。カメ

 

 

「インフィニティ・プール」