昨年春クールにTBSの日曜21時に放送した「新参者」
そのスペシャルバージョンとして、同じ東野圭吾の加賀恭一郎シリーズ、一つ前の作品「赤い指」のドラマ化がされました。
「新参者」より何年か前の話になるわけで、加賀(阿部寛)と松宮(溝端淳平)の関係性などがより明確になりました。(松宮は原作では「赤い指」の方だけに登場し、「新参者」には登場しないのですが…)
親子の絆という普遍のテーマを深く見据えた、正月早々見ごたえのあるドラマでした。
1月3日 21時~
「赤い指」
主演…阿部寛
脚本…櫻井武晴、牧野圭祐
演出…土井裕泰
この作品は「刑事コロンボ」や「古畑任三郎」のように先に犯人がわかった状態から始まります。
残業をしていた前原(杉本哲太)のもとに妻(西田尚美)から早く帰って来てとの電話。
帰ってみると庭に女の子の死体が…
殺したのは中学生の息子。さぁ…どうするか?
父は自首させようと言い、母は死体を隠そうと言う。
私めは子供がいませんが、このくらいの息子がいてもおかしくない年ですし、我が身に置き換え考えてしまいました。
男は理屈の生き物ですから、理屈で考え、どっちみち警察に分かってしまうなら…と考えてしまいます…
前原の言う…未成年だから名前は出ないだろう…って言葉は私めも言ってしまいそうな世間体を気にする男ならではの言葉。
一方、母親は感情に流されるので息子は悪くない…の一点張り。息子をかばい守ることだけに必死になります…
警察に通報するなら私が死ぬと脅して、結局母親が押しきってしまいます。
このへんの杉本哲太と西田尚美の演技は真に迫っていて、ぐいぐい引き込みました。
普通の人の中に潜む狂気めいたものを2人とも見事に演じていました。
そうして庭にある死体を箱に積め自転車に乗せて、公園の便所に前原は棄てに行きます。
翌朝あっさり見つかり、捜査開始。警視庁から来た松宮と所轄にいる加賀はコンビを組み、周辺の聞き込みに回ります。
そこから「新参者」でも発揮された加賀の観察眼が、次々と前原家の怪しい部分を見抜いていく…というのがメインのストーリー。
ただし、そこにはもう2組の親子の絆も描かれます。一つは前原と老いた母親(佐々木すみ江)の絆。
同居するものの嫁姑の関係がうまくいかず、自分の部屋にこもり、認知症になってしまった母親。
前原は加賀の追及から逃れるため、この認知症の母親が女の子を殺したことにでっち上げるのです。
しかし、母親は実は認知症のふりをしているだけで、息子の過ちを止めようと、いろいろと手を尽くしていたのです。
それを見破った加賀はあくまでも家族の中で真実を明らかにする方法を取り、前原に白状をさせます。
私めが大好きなおばあちゃん女優佐々木すみ江さんが、相変わらずの巧みな演技で認知症のフリをするほど追い込まれた老母の悲哀を演じてくれました。
前原が子供の頃作ってあげた名札や、買ってきてあげたくず餅など泣かせポイントでした。
刑事はどれだけ事件を解決したかではなく、どれだけ人を救ったかなんだ…
これはやはり刑事だった加賀の父(山崎努)が、自分を慕い刑事になった甥の松宮に語る言葉。
この父のポリシーをちゃんと加賀もうけついでいたわけです。
死も近い病の床にある父を松宮がいくら言っても加賀は見舞おうとしません…
幼い加賀を置いて蒸発した母親が孤独の中死んだのを悔やんだ父は、自分も同じようにと息子を寄せ付けなかったのです。
看護師を通じて将棋をさしあっていたことがラストで分かり、父が最期に指したかった手を加賀が察して負けを認めるシーンは原作を読んだ時も胸に迫ったのですが、今回も胸にジーんときました。
阿部寛は加賀恭一郎という人物を自分のものにしていて、今回もすべてを見透すような眼の演技が絶妙で、今後もまだまだこの役をやって欲しいと思わせました。
わかっていながら相手を気遣う懐の広さを見せ、その控えめな人情味に打たれました。
加賀の父を山崎努が演じたのも十分功を奏しました。含蓄の深い演技というものを教えられた気がします。
連続ドラマの時は、回数かせぎの回などがあり、あまり高い評価ができなかったのですが、今回は非常にまとまりよく秀作でした。
溝端淳平はいい勉強になったことでしょう。
黒木メイサはどうでもいい役になっていましたが…