日本人って昔から何かのために自らを犠牲にする人の話って好きなんですよね。
歌舞伎で今も人気作品として残っているものには、主人や体制の命令に逆らって、
何かを犠牲にして何かを守る物語が実に多いんですね。
…って、ちょっと難しい話から入りましたが、最終回のこのドラマは
そんな日本人の美徳を感じさせる見ごたえある回でした。
このところちょっと不満の残る回が続いたので、
最後はまた良くなって終わってくれて、ホッとしました。
テレビ朝日 金曜23時25分
「死神くん」最終回
主演…大野智
脚本…橋本裕志
演出…本橋圭太
今度ヘマをしたら消滅処分になってしまう死神413号(大野智)と、
その共同責任をとらされ、一緒に消滅させられる監死官(桐谷美玲)
そんな2人にいきなり予定外の大量殺人を狙っている者がいるらしく、
それを阻止しろ…という難題が…。
しかも、その犯人の中平(田中圭)には悪魔(菅田将暉)がついていて、
願いをかなえてあげてるから、たちが悪い。
中平は以前会社内で産地偽装の不正が行なわれていることを見つけるが
かえって罪を押し付けられ、共に罪をかぶされ自殺した仲間のためにも、
罪をかぶせたり、隠蔽した連中やその家族を殺そうとしたわけです。
これまでになく緊迫感のある設定で、中平役の田中圭の思いつめた演技と、
冷静に願いをかなえていく悪魔の久しぶりの悪魔らしい演技の良さ、
加えてこのところあまり演技の発揮のしどころが無かった大野の
ジレンマに苦しみながらも正義感で行動していく複雑な演技をすんなりとこなすウマさが
あいまって、見ごたえあるものになりました。
特に中平に罪を犯して悪魔に魂を奪われないように死神が説得する屋上のシーンは
さながら田中と大野の演技対決の様相を呈し、両者一歩もひかない名演技で、
ひりひりと痛ましい名シーンとなりました。
中平を先に死なせるというのは明らかに規則違反で、それを承知で、
消滅処分も覚悟で行動する死神の姿は、切なくも美しいものでした。
共に消滅処分を言い渡される時の大野も、桐谷もすがすがしい実によい表情で、
やり残したことは無いと言うのには、胸を打たれました。
2人が人間として生まれ変わったというオチも
死んだ中平に代わって、悪魔が無念を晴らしてくれた粋なはからいも、
悲痛なだけでは終わらせないこのドラマらしい優しいフォローでした。
今回の評価は…
総評としては「大人のためのブラックファンタジー」という感じで、
生きるとは?死ぬとは?ということを考えさせられる良質なドラマでした。
主演の大野智の死神は、きわもの的に演じず、死に行く者や見送る者に関わりながら、
不思議な「人間」というものを次第に理解していくさまを、実に的確に演じました。
最初は乱暴な言葉が耳障りだった桐谷美玲も、次第になれていき、だんだん死神の
よき理解者になっていくさまをこちらもしっかり演じていたと思います。
また、ゲストキャストの質の高さも特に前半はしっかりしていて、
主役の大野が前面に立たなくても、十分見ごたえのあるものにしていました。
大野が次に連ドラがあったらどんなキャラを演じるのか今から楽しみです。