…で、今回このドラマでは、庶民的な落語よりはるかになじみのない能の演目をドラマの内容とリンクさせるという至難のわざをやってのけたのです。
TBS 金曜22時
「俺の家の話」第4話
主演…長瀬智也
脚本…宮藤官九郎
演出…山室大輔
私め、実は幼い頃から大人になるまで日本舞踊を習っていましたので、伝統芸能にはふつうの方よりかなり詳しいと自負しております。
今回、このドラマで取り上げられた「道成寺」という演目で、これは後に歌舞伎舞踊の「娘道成寺」という演目にもなり、歌舞伎の中では大変ポピュラーな演目です。
しかし、その元になった能の「道成寺」を見たことのある人はなかなかいないと思います。
ご存知でない方のために内容をざっと説明しますと、
恋しい男に裏切られた娘が恨みのあまり大蛇となり道成寺の鐘に男が隠れると、それを取り巻き焼き殺してしまうという出来ごとがあり、
その鐘が再びできた鐘供養の日に白拍子が訪れ供養の舞を舞わせてと頼みます。舞わせると白拍子の形相が変わり鐘は落ちてその中へ。
鐘を引き上げると大蛇となって現れるというお話です。
子どもたち向けの能のイベントで、その「道成寺」を寿限無(桐谷健太)が舞い、鐘を上げ下げする鐘後見を寿一(長瀬智也)が勤めることになります。
寿一がその鐘の上げ下げの練習を古巣のプロレスリングでやらせてもらったら、早速これ面白いからと、
寿一がスーパー世阿弥マシンとして試合に登場する時に鐘の中から現れるという趣向を始めます。プロレスに持ち込む宮藤官九郎の奇抜なアイデアにまず驚きました。
更に、この鐘は本番の日に秀生(羽村仁成)と「小袖曽我」を舞うはずだった大洲(道枝駿佑)がいなくなり、鐘から袴の端が見えていて、秀生はその中に大洲が隠れていると思い込むというのにも使われます。
道成寺の鐘からはみだす着物といえば、横溝正史の「獄門島」を思い出された方もおられるでしょう。
宮藤官九郎もうまくそれをパクっていて、鐘の中からは大洲ならぬ、寿限無が出てきます。
その前夜に実は自分は寿三郎(西田敏行)と母(美保純)との一夜の過ちでできた不義の子と聞かされていて、
その時は平静を装っていましたが、鐘の中で人知れず泣いていたのでした。
鐘から出てくると寿限無の形相が変わり、寿三郎にも「うるせぇ、クソじじい!」と言い放ち本番へ。
白拍子の能面をつけ、舞台に向かうのでした。
今回は桐谷健太が光る演技を見せてくれました。
「道成寺」という演目を今回のドラマの肝の部分とリンクさせる見事な脚本でした。
大洲と秀生が踊るはずだった「小袖曽我」を急きょ秀生と寿一が親子で舞うシーンも感動的でした。
「小袖曽我」というのは曽我兄弟が父親の仇討ちに行く前に母に別れを告げに来るという話で、
秀生の舞い姿を見て母(平岩紙)が客席で涙を流すのはグッと来ました。
私めは日本舞踊の家に生まれたわけではありませんでしたから、歌舞伎や日本舞踊の名門の親子が舞う姿に幼い頃憧れたものでした。
名門に生まれた子にはそれはそれで、自分のやりたいことができない葛藤もあるとは、その頃は知りませんでした。
寿一は大洲の気持ちが痛いほど分かり、ダンスコンテストに行かせるのが洒落てましたね。
今回の評価は…
寿一が大洲たちがたむろする池袋ウエストゲートパークに現れるシーンはワクワクしましたね。セルフパロディ洒落てました。