オリジナル脚本で脚本家の個性を打ち出した脚本を書ける数少ない一人です。
しかし、なぜか最近やたらと橋部敦子脚本のドラマが連発していて、「知ってるワイフ」「モコミ」は橋部敦子にしては私めには感心しきれない作品でした。
そんな失望の中、またも橋部敦子脚本のドラマなのですが、大人の事情が少ないNHKだからこそなのか、今回は橋部敦子らしさがちゃんと出しきれる作品になりそうです。
NHK 金曜22時
「半径5メートル」第1話
主演…芳根京子
脚本…橋部敦子
演出…三島有紀子
最近なぜか出版社の編集者がヒロインのドラマが多いのですが、このドラマのヒロイン風未香(芳根京子)は女性誌の記者。
芸能人の熱愛ネタとか販売部数を上げるためのスクープネタを追う一折班の2年目、先輩記者のセクハラをいなせるまでには来ましたが、
ゲスな記事を書かねばならないことに抵抗はまだ残っていて、女優と年下俳優との熱愛のスクープ写真を撮るはずがヘマをしてしまい、
そのネタはスポーツ紙に先に出されてしまい、デスク(三浦誠己)からは激怒され、生活情報を扱う二折班に異動させられてしまいます。
演出家の意向かもしれませんが、出版社のセットがユニークでスクープを追う華やかな一折班は明るくても冷ややかでビジネスライクな空間で、
そこから階段をおりて下にある二折班は、ちょっと薄暗くレトロな空間ながら、どこか温かみがあります。
ビジュアル的にもその対比を見せる演出は面白いなと思いましたが、演出の三島有紀子はNHKを退局し、映画監督になった人でした。
さて、風未香はレトルトおでんを買う主婦に文句を言った「おでんおじさん」のネタを記事にするように二折班デスク(尾美としのり)に命じられます。
ベテランのフリーライターの宝子(永作博美)がアシストでついてくれるのですが…という展開。
SNSに投稿した主婦アゲハさん(前田亜季)に取材に行き、話を聞きますが、風未香はステレオタイプの女性の怒りを集めた記事を書こうとします。
宝子はそんなの面白いとは思わないけど書いてみたら…と冷ややか。
じゃあ、どうしたら?と聞く風未香に宝子が浴びせる言葉が私めにはグサッと来ました。
「私が面白いものに合わせるの?…(略)…あなたは何をどう見るの?」
私めも長年テレビの世界に身を置いていますが、まさにこの通りで、自分が面白い!と思って作っていなかったら面白いものができるわけがない…というのが持論です。
同じテーマでも人によって見方は千差万別、それぞれのアプローチの仕方があります。
この宝子の言葉は脚本家、橋部敦子自身が訴えたい言葉でもあるように思いました。
永作博美という技量の高い演者を得て、この言葉には更なるパワーが加わり、ヒロインに大きな影響を与える言葉になりました。
アゲハさんが家族にはおでんおじさんについて話してないという言葉から、アゲハさんと夫の関係、モラハラ的な夫は実は会社をやめ(クビ?)Uberイーツ的なものをやっていることもつかみ、
男は弱みを見せるべきではないという強がりやすりこみがおでんおじさんのような存在を生み出すという視点の記事を書くのです。
そもそも手づくりのおでんってどこからやったら手づくりなのか?という問題提起も添えて。
確かに、男だからこうしなきゃとか、って小さい頃から言われることが、子どもにとっていかに呪縛になることか。
アゲハさんが息子に泣くなと夫が言ったら、泣いたって良いのよと言い、夫も泣きたい顔になるシーンは深かったです。
一折班のデスクに風未香が「私の記事だって言える記事を書けるようになります!」って宣言したのは、早速その成長ぶりを見せました。
「コタキ兄弟の四苦八苦」で凄みを見せた勢いのある若手実力派女優の芳根京子、その力量を遺憾なく発揮できるドラマになりそうです。
永作博美をはじめ、尾美としのり、トランスジェンダー記者役の北村有起哉、妊娠中の記者役の山田真歩、周りは頼もしいメンバー揃いです。
期待できますね。
今回の評価は…
